場所:長野県の姫川温泉
最寄駅:JR大糸線・平岩駅 など


出張中の宿泊施設は歳を重ねると、どうしても温泉宿の畳の部屋でゆっくりくつろぎたくなるものです。先般旅人三人(呑兵衛、安兵衛、竹次郎)が宿泊する機会がありました。
田吾作観光社(竹次郎)が下見までして、予約した「姫川温泉」の「朝日荘」という鄙びた破れ宿に宿泊したのですが、予約の際に変な値切り方をしたため、少しは安い旧館(新館といっても旧館とあまり代わり映えしないのですが・・)となったのです。
80歳?になろうかと思われる仲居の案内でレトロ風の階段を昇り、値切った(結果的には初めからの設定価格であったのです)二階の部屋に通されました。廊下は「鴬張り」(鴬張りとは聞こえはいいが、古くてギシギシしている)で歩くと賑やかになるのです。
しかも便所は面倒なことに1階まで下りなくてはならないのです。2階に便所がないなんて、今時珍しい宿なのです。ビールを飲んだら便所に行く回数が増え、夜中に寝ぼけて階段から転げ落ちたりして大騒動になってしまうので「ビールは控え候」しなくては・・・・。

先ずは露天風呂にでも入ろうと行ったのですが、これがどうしようもないほど熱くて、水を入れても埒があかず、結局は断念して下の岩風呂に行きました。ところがここは通風性が悪く、ムンムンするうえ、黴臭くてどうにも温泉気分を味わえることはできませんでした。夕食となったのですが、値段が値段だけの料理を肴に飲みながらワイワイしていると、先程の仲居が来ました。髪型から勝手に判断し「昔は芸者さんでもしていたのですか」と尋ねたら、「失礼ね!こう見えてもタイピストだったのよ」ということになりました。
女将の母親の友達だそうで、毎日が「老婆の休日」のため、頼まれると時折手伝いに来ているとのことでした。この老婆は年金生活をしており、金には不自由はしていない様子で「子供には世話にならない」と言いながら、息子の運転するセンチュリーに乗って颯爽と富山県入善町からやってくるのだそうです。
鄙びた温泉宿は暗いサークラインが寂しそうに点っており、テレビは20年前位の旧式の韓国製で映りは悪く、しかも取分け唯一視聴料を支払っていると思われる?NHKが、ザアザアと雑音入りで、画面は土砂降り、見るにも苦労して目が疲れてしまった。
木賃宿特有のトタン屋根に、折からの台風6号の雨が吹付け、しかも樋が付いていないので、トタン屋根に落ちる雨音は、ビートの効いた激しい乱れ打ち、賑やかさが一晩中続き、ほとんど熟睡することもできなかった有様でした。

翌朝は7時半からの朝食ということであったが、「老婆の休日」は朝が早く、7時前より用意がで きていて「いつでもいいですよ」と朝食会場(隣の部屋)で待ち構えていました。
夕食同様に料理は期待ができないため、田吾作観光社が持ち込んだシーフードバイキング料理?アンチョビ風・鰯の醤油煮込み(鰯の醤油味缶詰)、地中海風・鯖のムニエル(鯖の水煮缶詰)、上海風・アムール貝の醤油仕立て煮込み(赤貝缶詰)をテーブルに並べ、少しは賑わいを付けました。米処新潟であることから、ご飯だけには期待したのですが、これが古古米を使用しているのか、不味くて手の施しようがなく箸が進みませんでした。

ここ姫川温泉も以前は温泉街として栄えたようですが、今では数軒ある旅館は疎らに訪れる客を相手に細々と営業をしているのです。
少し上がった所に白馬温泉(一軒宿で名称だけは白馬観光ホテルと素晴らしいが・・)があるのですが、ここは姫川より更に落ちぶれていて、電灯も点されていない玄関で、いくら呼んでも返答はなく、お化け屋敷同然で営業しているのかと思わせるほどでした。
共に栄枯盛衰で今やゴーストタウン化されてしまったのです。
鄙びた宿ではやることもなく、暇をもてあましており、例によって一句詠んでみました。

●値切ったが 元々安い 部屋だった ●下見して 選んだ宿が 大外れ
●破れ宿 いくら呼んでも 返事なし ●安いはず 何でもこなす 老婆かな
●もう一度 行く気にならぬ 宿屋かな ●安い宿 何故か映らぬ NHK
●露天風呂 熱くて入れず 風邪を引き ●土砂崩れ 残った宿は こんなもの
●古い宿  迎えた人も 古い人  ●米処 これが自慢の 不味い飯
●任せてと 下見したのは 何を見た ●持ち込んだ 缶詰だけが 旨かった
●名湯も 自慢の岩風呂 黴臭く ●鴬張り 聞こえはいいが 壊れかけ
●階下まで 降りて行かねば 用足せず ●もう少し 月日が経てば 閉館か

題名:N0.348『安い宿 激しい雨音 眠られず』より